8/26/2014

はじまりの空

小さなお風呂場全体が、湯気で曇っている。
まだ濡れたままの髪をブラシで梳いていた手を止め、鏡に映る自分の顔をみつめて、ノリコはほぉっと小さく息をついた。

(結婚、したんだ.....)

遂に、イザークとの結婚式を迎えた日の夜。

満開の花畑の中で行われた、文字通り夢のような結婚式。
とりしきってくれたのは、ドロスとともにエンナマルナから駆けつけてくれた族長のマードウッグだった。光の恩恵を最も受けている彼による儀式はやはり光に満ちていて、ふたりの新しい門出に相応しいものになった。

式の後は、近くの町の広場をほぼ借り切った状態での披露宴が夜通し行われている。

宴もたけなわになった時、『そろそろ...』とグローシア達に促され、ノリコは一足先に退席した。初夜の準備のため、である。

(うきゃあああああ〜〜〜〜〜〜〜!)

手伝う、というグローシア達を必死に断り、なんとかひとりで風呂に入ったノリコだったが、用意されていた薄地の夜着を身に纏った途端、姿見に映った自分の姿を見て全身真っ赤になった。

いかにも新婚さんと言わんばかりの、薄手で露出度の高い夜着だ。

(グ、グローシアったら.....)

まるでギリシャ神話にでも出てきそうな、胸元をこれでもかと強調した夜着に、着ているこちらが気恥ずかしくなってしまう。

この姿でイザークに会うのかと思うと、いかにもな気がして、恥ずかしさに顔から火が出そうになった。

(べ、別に初めてってわけじゃないし.....)

これまでにももう何度も肌を重ねてきたのだから、いまさら恥ずかしがる必要もないのだろうが、やはり苦楽を共にしてきた仲間達の前で永遠の愛を誓った結婚式の後だと思うと、少なからず身が引き締まる思いがする。

(なんだか、初心に返ったというかなんというか.....)

火照った頬を両手で包み、ノリコは思わず俯きながら寝室へと向かった。



「あ、あれ....?」

少し緊張しながら寝室の扉を開けたノリコは、質素でがらんとした部屋の風景を目にした途端、拍子抜けしたように肩を落とした。

もともと町外れの古い家屋なのだから、何をどうこうできるわけでもないのだが、あれだけ『初夜だ、初夜だ』と本人達より張り切っていたグローシア達が準備したわりには、昨夜となんら変わりのない、殺風景な寝室だった。

(もっとこう、薔薇の花びらがベッドの上に散らされてて、部屋中キャンドルライトでムード満点−−−みたいな演出がされてるかと思ってたんだけど....)

部屋をキョロキョロと見回した後、ノリコは、はた、と我に返って気恥ずかしさに真っ赤になった。

(ま、またやっちゃった、あたし....)

もう何年もこちらの世界にいるのだから、いい加減慣れるべきなのに、またしても、昔見た映画か何かに影響されまくりのドラマチックなシーンを知らず想像してしまっていた自分が恥ずかしい。

とほほ、と呟き、ノリコは扉のそばで両手で頬を覆って立ちつくした。−−−と。

「ノリコ」

名を呼ばれてふと目を上げると、開け放たれた寝室の窓辺に、自分とお揃いの新緑色の夜着に身を包んだイザークが静かに佇んでいるのが目に入った。

こちらを見て、やわらかな笑みを浮かべている。
その肩には、ドロスが連れてきたはずのチモが、2匹ちょこんと並んで座っていた。

「イザーク♡」

まだ少し顔を赤くしたまま、ノリコはてててっと小走りにイザークの元へ歩み寄った。

「....今夜はやけに色っぽいな」

胸元が大きく開いたノリコの夜着に視線を落とし、イザークがポツリと呟くと、ノリコは反射的にバッと両腕で胸元をかばいながら、また真っ赤になった。

「ど、どうしたの、イザーク。チモなんか連れて」

初夜だということを意識せずできるだけ普段通りに、と心がけながら、ノリコが少しぎこちない笑顔で問いかける。

そんなノリコの心境が手に取るようにわかるのか、クスリと軽く笑いながら、イザークは手を伸ばし、ノリコの上気した頬に左手の甲でそっと触れた。

「−−−−今夜の寝所へ、愛妻を連れていこうと思って」

「え?何?寝所って...この部屋で寝るんじゃないの?」

古家まで一緒に戻って来たグローシアとガーヤには、今夜はこの家をイザークと二人きりで使うのだと聞いていたのに。

きょとんとして小首を傾げるノリコの肩にイザークが手を置くと、チモの一匹がチチチッと鳴きながら、素早くノリコの肩に移動してきた。

赤ちゃんの頃から一緒にいた子達なので、ノリコ達にも良くなついている。フワフワとした身体が首の横をすり抜ける際に、ノリコはくすぐったそうに首をすくめてふふふっと笑った。

「−−−行くぞ」

そんなノリコを愛しげにみつめ、イザークはノリコの腰に腕を回して引き寄せた。

「え、どこ−−−−」

言いかけたノリコごと、チモを使ってシンクロする。



「−−−−へ行くの...?」

言いかけた言葉が終わるよりも早く、ふたりはシンクロによって別の場所へ移動していた。

言いかけて開いたままだった口を閉じ、ノリコが顔をあげると、そこは見覚えのない広々とした天幕の中だった。

ノリコから腕を外し、イザークが、天幕の隅に置かれたバスケットにチモを降ろしに移動する。ひとり天幕の中を見回し、ノリコは目を丸くした。

天幕の中央には大きな寝台が置かれ、その周辺には、いくつもの燭台の灯がともされている。寝台の上には花びらも散らされ、まさにノリコがイメージしていた映画のワンシーンのようだ。

だが、ノリコが驚きに目を見張ったのはそれではなく−−−−−。

「ここは.....」

丘の上に設置されているらしい天幕の片面は大きく開け広げられ、すぐ眼下には、どこまでも続く草原が月夜に青白く浮かび上がっていた。

昼間、結婚式を挙げたばかりの色とりどりの花々に包まれた草原−−−−。満天の星空の下、思わず天幕の端まで歩み寄って目の前に広がる夢のような光景を見下ろし、ノリコは言葉もない。

「−−−−披露宴の間に、グローシア達が手配してくれたらしい。町からだいぶ離れているし、人払いもしてあるから、今夜は邪魔が入る心配はないそうだ」

少しからかうような口調で言いながら、ノリコに背後から近づき、イザークはその肩にそっと両手を置いた。

「彼等からの、結婚祝いだそうだ」

「きれい....」

感極まり、ノリコは両手で口元を覆い、涙ぐんだ。グローシア達の優しい心遣いに胸を打たれる。

「−−−あ、そうだ!これ....」

結婚祝い、で思い出した。

ハッと振り返り、ノリコは、帯の間に挟んでおいた掌サイズの小さな青い布袋を引き出して、おずおずとイザークに差し出した。

「あたしから、イザークへの結婚祝い」

「?」

袋を受け取り、結び目をほどいて中身を左の掌に出したイザークは、それが指輪であることに気づいてわずかに目を見張った。

ノリコに結婚の申込みをした際にイザークが贈ったものと同じ、蒼銀色の指輪−−−−−。

「これは....」

「あ、あのね、ホントはもっと早く渡したかったんだけど、イザークがくれた指輪って、実はすごく珍しい金属で、アイビスクでもほんの限られた場所でしか採れないものらしくって、おばさんに探してもらうのにずいぶん時間がかかっちゃったの」

渡された指輪を右手の親指と人差し指でそっと摘んで持ち上げ、そのまま無言でいるイザークをみつめて、ノリコが少し焦ったように早口に続けた。

「こっちの習慣じゃないし、イザークが普段指輪とかしない人だってわかってるんだけど、あっちの世界では、結婚指輪って夫婦揃ってはめるものだから、やっぱりお揃いではめたいな、なんて思っちゃって....」

イザークの反応がまったくないことで、余計に焦りが募る。
ノリコは少し不安になりながら、そっと指輪を持つイザークの右腕に指先で触れた。

「あの...あのね、古代ギリシャの−−−あっちの世界の国のひとつの言い伝えなんだけど、左手の薬指は、心臓に直結してるって信じられててね。心臓は人の心だから、心に一番近い場所にってことで、結婚指輪を左手の薬指にはめるんだって」

あまり物に執着することのないノリコだが、あの日樹海でイザークがくれた指輪は、以来ノリコにとって大切なものになった。

この世界で何よりも誰よりも大切なイザークの分身のように、自分の心に一番近い場所に常に身につけておけることが、なにより嬉しい。そんな思いから、ついイザークにも、と用意してしまったのだけど....。

「あ、あの、もし趣味じゃなかったら、はめなくてもいいから!あたし、気にしないし...」

焦ってたたみかけるノリコに目を向けたイザークの顔に、ゆっくりと、満面の笑みが浮かぶ。

「−−−いや。ノリコからの贈り物だ。嬉しくないはずがない」

言いながら、指輪を左手の薬指に通す。
シンプルなデザインの蒼銀色の指輪は、まるでずっと昔からはめていたもののように、すらりとしたイザークの長い指にしっくりと馴染んだ。

掌を一度広げて指輪のはまった自分の手を眺めてから、イザークは、ノリコを後ろから包むように抱きしめ、その両手に指を絡めた。お互いの薬指にはまった蒼銀色の指輪が触れて、カチリと軽く音を立てる。

「...ありがとう。大切にする」

両手の指を絡めたまま、腕をクロスさせ、ノリコの細い身体を優しく抱きしめる。
ふふふっと嬉しそうに笑うノリコの頬に唇を寄せ、イザークは軽くキスを落とした。

「−−−−これで、ノリコが本当に俺のものになったな」

「イザーク....」

くすぐったそうに肩をすくめながら、ノリコが微笑む。

「あたし、イザークの本当の『家族』になったんだよね。これからは、ずっとあたしが一緒だからね」

もう、絶対にひとりじゃないよ。

なにがあっても、自分だけはずっとそばにいる−−−−ずいぶん前に交わした約束。

でもこれからは本当に、夫として、妻として、一緒に生きていく。歩いていく−−−−。

そう思うと、ノリコは感慨深い思いで胸がいっぱいになった。

「イザーク、ありがとう。あたしの家族になってくれて....」

呟いた声は、感無量のあまり思わず涙声になっていた。

これ以上はないというほど幸せな気持ちで、ノリコは絡めた指に力をこめ、イザークの顔に自分の頬をすり寄せた。

「イザーク、大好き....」

口に出した言葉だけでなく、心を通して伝わってくるノリコの想いに、イザークは無言で幸せを噛み締めた。さらにきつく、ノリコの身体を抱きしめる。

「昨夜言ったこと−−−−覚えているか?」

耳元でぼそりと囁かれ、ノリコの顔が一気にカッと真っ赤になった。

昨夜、本来ならば婚姻の儀式までお互いを見てはいけないはずのふたりが諮らずしも草原で落ち合った際、愛しさのあまりノリコを抱こうとしたが我慢したイザークに、『明日の夜は寝かせない』と今と同じように耳元で囁かれていたことを思い出し、ノリコは思わずイザークの手をほどき、両手で顔を覆った。

その隙に、イザークの手が、ノリコの腰帯をするりと慣れた手つきでほどく。

ほどけた帯が地面に落ちるのと同時に、夜着の前がふわりとはだけ、ノリコの形の良いふたつの白い乳房が夜気にさらされた。

「あ−−−」

かっと頬を染めノリコが両手で胸を隠そうとするのを、イザークの手が素早く押し止める。そのまま背後からノリコの乳房を大きな両手で包み込むと、手に吸い付くようなきめの細かい肌の感触を味わいながら、同時に、イザークは、桜色の突起をゆっくりと愛おしげに指先で撫ではじめた。

「イザ...ク...」

それだけで身体の芯から疼くように熱が沸き上がってきて、足元から力が抜ける。腰がくだけたノリコは、イザークの胸に背を預け、その腕にすがりつきながら吐息を漏らした。

イザークの唇が、ノリコの細い首筋を辿り、左の耳たぶを甘噛みする。
くすぐったさにノリコは身をよじって避けようとしたが、もちろんイザークはそれを許そうとはしない。逆に、イザークの舌はゆっくりと丁寧にノリコの耳たぶを舐めあげた。

「は...あ....」

思わず甘い声が漏れると、ノリコのふくよかな胸を揉みしだいていたイザークの手にさらに力が加わった。左手でノリコの乳房を愛撫しながら、右の手がゆっくりと下腹部へと降りていく。

「あ....」

恥ずかしさに無意識に太腿に力を入れて足を閉じようとしたノリコの抵抗も虚しく、やがてイザークの指は薄い茂みに到達し、ゆっくりと、その先の狭間へと指先を進めた。すでにしっとりと濡れた割れ目に指を差し入れ、固くなった部分を人差し指で転がしながら、中指を先の蜜壷へと這わせる。

十分に知り尽くしたノリコの身体だ。間違いなく感じる部分に指を這わせ、イザークはゆっくりと焦らすように中を擦りあげた。

「あ、あ..」

まるで初めての行為のように全身を強ばらせ、ノリコが目尻に涙を浮かべながら顔を真っ赤にする。そして許しを乞うように向けてくる目線があまりにも艶っぽく、その熱い眼差しを受けて、イザークは、己の身体を支配する欲情に身を震わせた。

愛しさに、気が狂いそうになる。

いつもは波ひとつ立たない湖面のように静かで穏やかなこの青年が、自分が与える快感に耐えかね、熱に侵された身体を持て余して、目を潤ませ唇を震わせながら自分を見上げてくるノリコを見るたびに、理性を失い、めちゃくちゃにしたい欲望に全身を支配されていた。

「あ...あ....」

我を忘れて喘ぐノリコの姿に、イザークの男もはちきれんばかりの欲望に膨れあがっている。これ以上は我慢できんと少し手荒に指を抜くと、イザークはノリコを抱き上げ、その華奢な身体を天幕の中央に置かれた寝台へ横たえた。

甘い吐息が溢れた唇を、自分のそれで荒々しく塞ぎながら、ノリコの夜着をはぎ取る。

激しくノリコの口内を舌で責め立てたあと、イザークの唇はそのままノリコの顎を辿り、白い喉元を滑り落ち、その胸元へと向かった。ふくよかな乳房を両手で包み、固くなった突起をひとつずつ丁寧に舌で愛撫する。

自分のものだと所有印をつけるかのように胸のいたるところに赤い花を散らしながら、イザークはノリコの膝を両手で割り、その間に顔を沈めた。

「ああっ....!」

すでにおかしくなりそうなぐらいの快感に我を忘れかけていたノリコが、巧妙なイザークの舌の動きでさらなる快感を与えられ、シーツを握りしめながらびくんと身体を反らせた。その姿を上目遣いに見上げながら、イザークはノリコの太腿を両手で抑え込み、さらに激しく奥まで舌を伸ばして愛撫を続けた。

「イザーク...や....ダメ.....」

目尻に涙を浮かべ、自分の愛撫に息も絶え絶えに悶える姿を見ていると、どうにも我慢ができないほど欲情をかき立てられる。いつも無垢な少女のような笑顔を見せるノリコが、自分が与える快楽により、ほかの誰にも見せたことがない『女』の顔で喘ぐ。その顔を見たくて、イザークの舌は執拗にノリコを責め立てた。

甘い蜜の味に、ぐらりと酔いそうになる。

「あ..あっ.....!」

遂に耐えきれず、快感に身を委ねてノリコが声を上げた。そのままビクッと背を弓なりに反らせる。

やがてぐったりと全身から力が抜けてシーツに横たわったノリコからやっと顔を上げ、膝立ちしたイザークがゆっくりと自分の夜着を脱いだ。

数々の戦いにより鍛えられた、しなやかな裸体が月光に浮かびあがる。

すでに固くはち切れんばかりになった自身をそっとあてがいながら、イザークはノリコの頬を優しく片手で包んで上向かせ、まだ荒い息のまま呆然としているノリコに軽く口づけた。

顔を上気させ、涙目になったままノリコが自分を見上げてくる。

目と目が合った瞬間、イザークは、固くたぎった自身をぐっと一気にノリコの中へと押し込んだ。

「.....!!」

声もなく、ノリコが上半身を起こし、イザークの背に夢中でしがみついた。

そのまま何度も大きく突き上げられ、揺さぶられ、ノリコは快感の波に飲まれて、ただただ喘ぎ、啼いた。イザークも、その声を耳元で聴き、狂おしいほどの愛しさに思わず果てそうになるのを必死に堪えながら、ノリコを押し倒し、その両足を肩に乗せ、さらに深々と奥まで突きあげた。

お前は俺のものだ、と告げるかのように。
その身体に、自分の熱を刻印のように焼きつけ、残そうとするかのように。

「ノリコ.....!」

身も心も完全に解け合い、魂までひとつになったような一体感に酔いしれる。

愛しさが、突き上げるたびに高まる。溢れる。

「イザ....」

大きなうねりに飲み込まれ、身体の奥で何かが弾け、ノリコは、イザークの背にしがみついたまま、再び身体を反らせて意識を手放した。

同時に一気に昇りつめ、イザークも、ノリコの中に欲望を放った−−−−−。


********


遠くで、鳥達がさえずる声が聞こえる。

温かい日差しを瞼の向こうに受け、イザークがゆっくりと目を開いた。

やわらかい朝方のまだ少し青みを帯びた光が、開け放たれた天幕の向こうから差し込んでいる。この位置から見えるのは、丘の向こうに広がる空だけだ。

「......」

右腕に、心地よい重さを感じる。

ゆっくりと視線を落としたイザークのそばには、脇にぴったりと寄り添い、右腕をイザークの胸に回してぐっすりと眠っているノリコの姿があった。

知らず、口元が緩む。

起こさないように細心の注意を払いながら、少しだけ身体をずらし、右手でノリコの髪に触れる。

空いた左手で、ノリコのむき出しの肩を包むように抱いた。

(ノリコ.....)

何度抱いても、まだ、足りない。

抱けば抱くほど、より強く彼女を欲している自分に気づく。

愛しさが、溢れる。
ノリコとひとつになる一体感があまりにも甘美で、無理をさせてはいけないと思いつつも、何度も求めてしまう。

(これじゃまるで中毒だな....)

抱いてはいけない、と自身を制御できていた頃が信じられないほど、今はもう、ノリコを求めずにはいられない。彼女のぬくもりなしでは、眠りにつくことさえ適わないこともしばしばだ。

ノリコの髪に頬を寄せて軽くキスを落としながら、イザークは自嘲気味にひとり笑った。


左手の薬指に、まだ見慣れない蒼銀色の指輪が光る。

掌を朝陽にかざし、昨夜ノリコが教えてくれた薬指と指輪にまつわる話を想起しながら、イザークは、その指輪が象徴する新しい責任の重さを深く実感した。

「−−−−−−」

これまでも、ノリコのことは『家族』だと思ってきた。守ってきた。
だがこれからは、『夫』として『妻』として、より強い絆を築いていく。

ずっと独りで生きてきたイザークにとって、自分以外の誰かの命に責任を持つことは、余計な重荷であり、足枷のようなものだった。

実際、初めてノリコと樹海で出会った時には、なぜ自分ばかりがこんな厄介ごとを背負わなければならないのかとひとりごちたこともある。

が。

今、こうして自分の腕の中で安らかな寝息をたてているノリコの肌の温もりを直に感じながら、イザークは、言葉では言い表せないほどの幸福感に全身を満たされていた。

すべては、ノリコと出会ったからこそ得られた想い。

もしノリコと出会えていなければ、今でも独りで身軽に生きていたかもしれない。だが、この幸福感を得ることは決してなかった。

これほどまでに心地よい重荷には、きっと二度と出逢えない。

見上げる夜明けの空までも、まるで初めて見るような新鮮さを覚えながら、イザークは、ノリコを包んだ両腕にそっと力を込めた。

8 件のコメント:

  1. とても素敵でうっとりしちゃいました。
    イザークとノリコの新婚生活、まだまだ読みたいです。

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    1. コメントありがとうございます!今回、ちょっとやりすぎたかなー、削除しようかなーと悩んでいたところだったので、気に入ってくださった方がいて良かったです。
      これからもよろしくお願いします。

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  2. 初めてまして♪
    いつも楽しみにしています!
    今回、ちょっぴりビックリ(笑)しちゃいましたが…でもドキドキな展開で
    きゅんきゅんしました☆
    イザークさんのLOVEっぷりが
    たまりませんっっ!楽しすぎます‼
    削除なんて言わないで下さい!
    これからもきゅんきゅんなお話、
    お願いしますっ

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    1. きゅ、きゅんきゅん、ですか....(汗 いや、今回のお話はちょっと特別というか....。ほかのエピソードは、そうでもないんです、すみません。というか、たぶん、今後も、ここまで描写することはない....かと。まあ、そういう話の流れになればやるかもしれませんが、あくまでもキャラクターの性格からぶっとんだ話にはしないので.....。でも、頑張りますので、よろしくお願いします。

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  3. そうですよ! 削除なんてとんでもない。
    とても美しいラブシーンに年甲斐もなく ときめいてしまいました。
    イザークとノリコは、やっぱりこうでなくっちゃ・・・と 思います。
    これからも楽しいお話し、よろしくお願いします。

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    1. あ、ありがとうございます。私の妄想であることは間違いないのですが、『んなわけあるかあっ!」と彼方からファンの方に突っ込まれるような流れにだけはしたくないので、今後も頑張ります。原作の雰囲気にぴったり!とか、原作の続きかと思ったと言っていただけるのがなにより嬉しいので、その方向性だけは変えたくないです。頑張ります。

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  4. はじめまして。彼方からを久しぶりに読み直して、またはまってしまっています。原作に忠実で素敵なお話ですね。イザークとノリコの その後、素敵なお話を読めて嬉しいです。またお邪魔させていただきます。

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    1. コメントありがとうございます。彼方から、いいですよね。こんなに時間が経っているのに、いまだに読むたびにハマる作品って稀ですよね。私の妄想ストーリーを気に入っていただけて嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。

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